人類最強シリーズも四六版に。
イタリアの水の都市・ヴェネチアを舞台に、「一筆書きの条件」と「連続殺人魔」の二つの謎を哀川潤が追う。
かつて月を旅したり宇宙人と会ったりしていた哀川潤としては、かなり手の届きやすい範囲での旅行記となる。スケールよりもディテールかと考えたが、西尾維新らしい一つの着想ベースで後はキャラクターと言葉遊びという筆力で膨らませるタイプなので妥当ではないかもしれない。
コロナ禍で海外旅行が憚られる2021年現在においては、トラベルミステリ的な要素も含むかもしれない。が、視点人物の独特さゆえか、西尾維新の文章スタイルゆえか、旅情豊かな描写に溢れるわけではない。読者を擬似体験にいざなうことも、トラベル欲を掻き立てられることも、あまりなさそうに思える。舞台装置としての利用、という意味ではいかにも新本格以降のミステリらしい。
今後シリーズ化とのことで、また西尾維新らしいトラベルミステリを魅せてくれるのであろう。