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森見登美彦 『熱帯』

熱帯 (文春文庫)
誰も最後まで読んだ人間はいない、幻の本「熱帯」についての物語。
「熱帯」を追い求める人達の集い「沈黙読書会」や、その人物たちの「熱帯」にかかる個人的解釈やエピソード、著者の佐山尚一なる人物の足跡辿りなど、前半の展開は魅力的な謎が牽引する形で非常に面白く、静かだが熱を帯びた一つの冒険小説のような雰囲気も感じる。
後半は、作中作のような形で「熱帯」そのものが綴られていく。内容は大海の島と島を巡り渡るもので、非常にオーソドックスなこれまた冒険小説の様相を呈する。
この全く違う二つの冒険譚がアンバランスに、渾然一体とはならず溶け込まない形で、歪ながらも組み込まれているのが森見登美彦の『熱帯』となる。
自分としては前半の雰囲気に魅力を感じていたので、到達して欲しかった点に至って貰えなかったような感想となる。帯や前評判から、何らかの理屈付けを期待しながら読むべきでないことには薄っすら気付きつつ、それに反することもせずに裏切りを期待しすぎた、というべきか。