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吉田修一 『恋愛 コレクションI I』

恋愛 コレクションII (Shuichi Yoshidaコレクション)
愛蔵版。吉田修一の「恋愛」に関する作品集。
最後の息子』『熱帯魚』『キャンセルされた街の案内』『パーク・ライフ』から抜粋の数編と、『春、バーニーズで』『女たちは二度遊ぶ』『ひなた』『東京湾景』丸々、単行本未収録の雑誌掲載作「愛のある場所」「愛を誓う」「六つ目の角で」「愛住町の女」、書き下ろしの「自伝小説II」を収録。
例によって単行本未収録の作品群についての感想。4つの短編にはすべて、『最後の息子』『春、バーニーズで』の主要キャラクターであるオカマの「閻魔ちゃん」が登場する。
「愛のある場所」は、閻魔ちゃんの店の常連カップルの岐路にかかるエピソード。「愛を誓う」は、『最後の息子』『春、バーニーズで』の主人公・筒井の更に未来のエピソード。「六つ目の角で」は、身につまされるような中年ゲイのエピソード。「愛住町の女」は、閻魔ちゃんの店の常連客の中小企業の社長夫人の放蕩なエピソード。各々で話の主軸にはならないが、自然と風景に入り込む閻魔ちゃん。この本の半分くらいは閻魔ちゃんのためにあると言っても良いと思う。
書き下ろしの「自伝小説II」は、小学校から中学校の頃。吉田修一が直面した周囲の人物の「死」について。「死」そのものを描くことはそんなに多くない吉田修一だが、すぐそこに「死」があってもおかしくないようなリアルな日常を描く印象は強い。なお、吉田修一が映画の記憶に残るシーンについて語るが、そのシーンが本当にあるのか分からないと言い、「良い映画や小説が自分の人生の一部になるというのは、実はこういうことじゃないか」と説明する。これはなかなかに独善的ではあるが、いい加減で記憶が不確かな自分には勇気付けられるようや素晴らしい解釈と感じた。