書は言を尽くさず、

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堀井拓馬 『夜波の鳴く夏』

夜波の鳴く夏 (角川ホラー文庫)
現代〜近未来の設定と思われるデビュー作『なまづま』とは異なり、本書は大正時代を舞台とするが、その圧倒的な描写力・文章力は全く薄れていない。主人公である「ぬっぺほふ」等の人外や、その人外が集まる「無得市」の描写などを見る限りでは、むしろこうした設定の方がその描写力を発揮できるのではないか、とも思わせる。
主な視点は「ぬっぺほふ」である「おいら」にある。策謀を巡らしたりおべっかを使い他者を持ち上げたり嫉妬の炎を燃やしたりと、人外でありながら人間並みかそれ以上に人間臭さを持つ点が面白い。途中、中盤から視点を切り替えたり手記形式を織り交ぜたりすることで、物語に捻りを加えている点も評価できる。
これぞ自分がホラーに求めるもの、という作品。