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貫井徳郎 『ひとつの祖国』

ひとつの祖国
小説トリッパー』連載作品の単行本化。
太平洋戦争後、東西ドイツのように日本も東側・西側に分割統治された後に再統一されたという設定のもと現代を描いた作品。
歴史ifのような筋書きだが、その設定とそこから発する人間の行動についてリアリティが高いのか低いのかはよく分からない。それでもとにかく読ませる貫井徳郎のリーダビリティは流石である。
主な視点人物2人のうち、自衛隊所属の辺見は公安に似た位置付けの特殊組織で事件を追う役回りで、これは警察小説を得意とする著者としては小慣れたもの。もう一方の視点人物、成り行きでテロリストの一味となる一条については、庶民的な設定でありながら行動力やコミュニケーション能力が都合に応じて付与されるようで、実像がぼやける印象。
連載ならではの使い捨てで繋がらないようなエピソードも散見され、荒削りな作品という感触。