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貫井徳郎 『女が死んでいる』

女が死んでいる (角川文庫)
ライセンス・藤原の写真付ビジュアルブックの文庫化(なお藤原は全面カット)に、単行本未収録の雑誌掲載短編を中心に7編を加えたもの。
単行本未収録が中心の短編集にも関わらず、初出の時期は90年代から2010年代まで多岐に渡る。うち5編が90年代なのだが、2010年代の表題作と比べてみると作風の違いに驚くことだろう。このミステリ・ギミックに富んだ作風こそが、過去は貫井徳郎の持ち味だったのだが、現在に至ってはプロットの人という評価の方が強いだろう。両者は相反するものではないし、特に長編では両立に成功している例があるが、短編では傾向の差が色濃く現れる。
本書においては、90年代の作品の中でミステリ風などんでん返しのために明らかに荒唐無稽な設定や描写になっているものもあり、なんじゃそりゃ感が拭えない。著者の真面目ゆえに豪腕で捩じ伏せることもできず、かといってポップにもシュールにもバカミスにもなり得ず、アンマッチ。短編ミステリ向きでない印象があり、本人もその自覚があるからこそ短編集の数が少ない(解説によると本書刊行時点で25年の作家生活で本書含み5冊のみ)のだろうか、などと邪推する。
とはいえ、多彩な作品を楽しめる一冊ではある。