書は言を尽くさず、

本読んだりしています

森博嗣 『イデアの影』

イデアの影-The shadow of Ideas (中公文庫)
谷崎潤一郎没後50周年記念作品。
主人公は女性で実業家の主人と家政婦の3人で暮らす。英語の家庭教師、天涯孤独の外国人青年、ハモニカを吹く少年と、様々な人物が彼女の前に現れ失せる。
ロジカルよりもリリカルが強い方の森博嗣で、冒頭思い切り振り抜いた後、1章からは現実的な筋書きとなる。しかしその後も、登場人物の死を契機に虚実が入り混じっていく。主人公の考え方、物の捉え方は繊細かつ上品さがあり、そこから生じる迷いが幻惑的な作品の雰囲気に繋がっている。語らなくても良いことは語らず、という向きもあり余韻を生み出している。かなりバランスを意識した作品では、と感じる。