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吉田修一 『犯罪 コレクションIII』

犯罪 コレクションIII (Shuichi Yoshidaコレクション)
愛蔵版。吉田修一の「犯罪」に関する作品集。
『キャンセルされた街の案内』から抜粋の数編と、『ランドマーク』『元職員』『さよなら渓谷』『悪人』丸々、単行本未収録の雑誌掲載作「ストロベリーソウル」、書き下ろしの「自伝小説III」を収録。
『元職員』は本書で初めて読む。タイ・バンコクの情景を観光的な目線で豊かに描く一方で、生々しい姿も漏らさず描く所も流石吉田修一というところ。バンコク旅行の主筋に主人公の過去のエピソードが挿入され、徐々に主人公の事情が詳らかになっていく。終盤の一見急な展開には、きちんとした序盤からの「噛み含ませ」がある。惜しむらくは、このアンソロジーではなく単独の作品で手に取った方が新鮮な受け取り方ができたかもしれないという点。
単行本未収録の作品群についての感想。「ストロベリーソウル」は韓国のスケートリンクで働く若者のエピソード。鬱屈、異常。
「自伝小説III」は高校時代。初期の短編「Water」を思わせるような時期。ぼかしながらもセクシャリティーへの言及もあり。