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小林泰三 『玩具修理者』

玩具修理者 (角川ホラー文庫)
日本ホラー小説大賞受賞作含む2編の短編集。
小林泰三の逝去の報を聞き再読。
玩具修理者」は男女の会話を中心とした怪談のような、そうでないようなホラー譚。この会話の噛み合わない感じは小林泰三作品の特徴的な部分だが、デビュー作の本作ではやや控え目で、くどさを感じさせない程度に留まっている。「玩具」を修理のため解体する際のスプラッタ描写。このスキルはデビュー時点で既に完成している。そしてクトゥルフ神話要素。自分自身クトゥルフ神話ものは予備知識がなく、ざっと調べてもよく分からない。要はそうした作品群で出てくる固有名詞をふんだんに用いている、それ以上の狙いや思想があるのかはよく分からないが、知らなくても楽しめる作品であることは間違いがない。
「酔歩する男」のあらすじは、主人公はバーで出会った見知らぬ男から「あなたが大学時代の親友だった」が、「今も昔も無関係」という矛盾することを言われる。主人公は処理しきれず、たまらず男の話を詳しく聞き始める。話は序盤全く噛み合わない。矛盾ばかりが生じる言い分。男が話し出す内容もどのような根拠付けとなるか全く予想がつかぬまま、エピソードの異常さと半面丁寧な語り口調が物語を牽引していく。長い長い男の話が終わり、酷く振り回された読者と主人公はえも言われぬ心地となる。また、作中で語られる考え方やエピソードからは、後の小林泰三作品に繋がるようなエッセンスも感じられる。原点、と言っても差し支えないかもしれない。
「酔歩する男」が分量的に本書の大半を締めるが、インパクトを受けた度合いも本編の方が上回る人が多いのではないか。日本ホラー小説大賞の受賞作に負けないインパクトを同時収録作に籠める、そうしたあるあるというかジンクスというか、標準的な期待値を設定させてしまったのは、間違いなく本書の仕業だろう(短編系の受賞は本作が初のため)。