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『SF JACK』

SF JACK (角川文庫)
日本SF作家の精鋭たちによる短編集。新井素子、上田早夕里、冲方丁小林泰三今野敏、堀晃、宮部みゆき山田正紀山本弘夢枕獏吉川良太郎
タイトルの意図はハイジャックをもじって小説界をSFでジャックするというもの。趣旨のとおり野心的な作品が並ぶ。
著名な作家が並ぶが初めて読む作家が多い。SF分野への経験の浅さを恥じつつも、そうした作家には初マークを付けておく。

冲方…初。アクション要素強め、ケレン味強め。イメージ通り。
吉川…初。SFの持ち味である大河的な時間の流れを活かした作品。
上田…初。発展した技術の下での人間心理。環境が異なると常識も異なるため難しいテーマだが、主人公を現代人寄りの思想に寄せることで感情移入しやすくしている。
今野…初。特殊なタイムスリップもの。
山田…猫を怖がらないマウスと、その世話をする女性。地下鉄の施設内で暮らす人々。視点の切り替わりや情勢変化など何かと忙しい。ごたくを並べる著者らしい作品。いつ読んでもある種の酔いを覚える。短編でもこうしてしまうのが山田正紀らしさか。
小林…スペースファンタジー。論理的でまどろっこしい会話。教育実験のためのコロニー。異文化の交流。育った環境が異なっても、どの視点にも人として根源的な、論理的な発想がある。小林泰三はこういう作品をもっと読みたい。
山本…初。バーチャルリアリティで構築されたもので何事も済ませる主流の世界。人と直接会うこと、子どもを出産すること、実物の紅茶を味わうことが異端とされ、宗教のような扱いを受けている情況。コロナ禍の生活における極論というか到達点のようなものと思え興味深い。
新井…初。未来人には標準的に備わっている第六感のようなものを保有しない主人公が、手術によりそれを備える。欠けている状況から追い付くという形で、読み手に感覚を寄せるテクニック。
堀…初。タイムスリップを扱いかつ理論的。こういうのを自分はハードSFと思っている、が、よく分からない。
宮部…未来の人間心理を描く点で上田と似ているが、取り組み方も見せ方も大きく違い面白い。
夢枕…初。ホラー寄りの設定。「餓狼伝」のイメージだったが、芸の幅が広いのだなと感じる。