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森博嗣 『相田家のグッドバイ』

相田家のグッドバイ
書き下ろし長編。
家族小説。「相田家」という、ありふれたようで一風変わった一家について、主人公の紀彦が回想的に語る形式。
森博嗣がこれまでの小説やエッセイを通して語ってきた家族観・死生観などについて、具体的な家族構成・居住地・年代等を著者本人の情況と合わせて(またはそのように見せかけて)、私小説風に仕上げた作品。
私小説風」と表現したが、他の森博嗣作品でも見られるこのリアリティは極めて効果的で、もう間違いなくこれ本人だろうと思わせるぐらい、森博嗣の築き上げてきたキャラクタとの整合性をとるように描く。この親にしてこの子があるのか、ということを、ごく自然に森博嗣本人を当て嵌めて想像してしまう。
間違いなく傑作なのだが、逆に森博嗣作品はあまり読んでいない人にとっては、このリアリティは伝わりにくいかもしれない。しかし、描かれていく家族の成長と老成・語られる観点(特に死生観)については、単独で充分興味深く読める内容であることは間違いない。
『喜嶋先生の静かな世界』をはじめ、著者が大学をやめてからのノンシリーズは冴え過ぎている。凄い。