主人公は理系の大学生。研究室の助手であり個性的な指導官であった「喜嶋先生」とのやり取りを思い起こしながら、大学・研究・学問・ひいては人生などが綴られていく。
おそらく自伝的・私小説的な要素も含んでいると思われる。または、そのように思わせるのが巧い。森博嗣が自らに設定したキャラクタの延長上に、本書の視点人物がいるような感覚。
終盤、主人公の述懐に感傷的な要素が強まる。哀愁漂うとともに、どこか静かな感動をも覚えさせる。傑作。
自分が幸運だったのは、そこそこに歳をとってからこの小説に触れられたことだと思う。もし仮に20代前半にこの小説を読んだとしたら、これほど感動できたかどうか相当に怪しい。