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坊木椎哉 『きみといたい、朽ち果てるまで ~絶望の街イタギリにて』

きみといたい、朽ち果てるまで ~絶望の街イタギリにて
日本ホラー小説大賞優秀賞。
現代もしくは近未来、違法がまかり通る街「イタギリ」を舞台とした物語。
選評で貴志祐介が指摘する通り、この架空の街の成り立ちについて、現実味の付与が不充分なように思う。重要な設定の一つなだけに理屈付けが乏しいと、物語のために場当たりに作られたモノのように感じられる。
なお、文章はどちらかというと癖のある印象で、おやという表現がたまに飛び出す。それ自体は嫌いではないが、主人公は充分な教育を受けていないため識字能力が低い設定。そうすると話し言葉寄りになると思うのだが……。しかし三人称だからギリギリセーフと言えるのか。これも本筋ではない部分で気になる点。
更に伏線の張り方が唐突というか伏せている期間が短すぎたり(プロットの問題か?)、色盲前向性健忘症など様々なネタを活用しきれずにいたり、前述のような粗々も多数見られる作品だが、綾辻行人が終盤の展開ひとつを以って推す点も理解できる非凡さも持ち合わせている。
つまらない指摘ばかり誘導させないように、もっと尖るか丸くなるか。悩ましいところかもしれない。