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伴名練 『なめらかな世界と、その敵』

なめらかな世界と、その敵
日本ホラー小説大賞短編賞受賞作家の短編集。6編収録。
SF設定が生む違和感…読者とのすれ違い・読み辛さを徐々に埋めるように、短編という紙幅の制限と闘いながら明かしていく。まるで大切なものを紡ぐように。バランス感覚と技量が必要とされるものだが、どの短編も巧妙に実施している。
表題作は、軽い語り口とSF設定の複雑さが却って序盤は混乱を生む様相。設定が分かると腑に落ちるが、果たしてこの設定下の標準的なメンタルがどのようなものか想像し難い作品ではある。しかし結末の達成感はベタながら中々のもの。
あと印象に残るのは「ひかりよりも速く、ゆるやかに」。設定の分かりやすさと読者と語り手の能力・状況が近いためにリーダビリティが先行する。もっとじめじめと書けば長編にもできるかもしれないが、作風的にこれがベストだろう。
他の短編は、伊藤計劃トリビュート等。他にも世界の反転や構造的技巧を凝らしたものがあり、バラエティに富んだ一冊。