殊能将之没後に発掘された短編等をまとめたもの。
短編は3つで媒体等への発表がない丸っきりの未公開作品。「犬がこわい」はともかく、「鬼ごっこ」「精霊もどし」は著者自らが生前認めていた通り、本格ミステリとしての期待を持ってしまうとやや肩透かしになるかもしれない。この辺り、著者の本質を表すような特徴を持った作品かもしれない。
最後の「ハサミ男の秘密の日記」は、過去に雑誌『メフィスト』に収録されたもので、日記と銘打っていながら親しい人に宛てたもの。その文章には、殊能将之こと田波正本人の人柄や家族・友人との関係性がよく表れている。軽い毒気とユーモアは、著者のホームページやTwitterでよく見られたものに近い。
しかしまぁ、故人であることを知った上で刊行された本を読むのは、やはり物悲しさを伴うものだと強く思う。またあの名探偵に会いたかった。