久方ぶりの吉敷シリーズ。
吉敷の妻・通子が金沢で下宿する大家の孫が誘拐された。誘拐犯は金銭ではない特殊で不可解な要求を突き付けてくる。吉敷は金沢に赴き、個人捜査に入る。
島田荘司よろしくの挿話の尺の長さが特に強調される作品。メインとして吉敷パート、サブ1として戦後昭和の盲剣楼パート、サブ2として江戸時代の剣豪パートの大きく3つに別れるが、少なくともメインがメインとは言えないような偏りとなっている。ただ、当然に読ませるのもサブパート。特に剣豪パートは、立身出世を夢見た若者が様々な人物との出会いを経て現実を知り、最後に守るべきもののための剣を振るという流れは成長譚としてありがちながらも読み甲斐がある。
あまり主軸ではないが、吉敷の娘・ゆきはもう大学生。時の経過を感じさせるが、吉敷は一体いつまで現役なのだろうか。通子と一緒に暮らさない理由は何だったか。名探偵コナン時空にしなかったための不自然さは、割り切って呑み込むしかないのかもしれない。