大雨と地震が重なった大規模自然災害によって5歳の少年・裕彦は特殊な能力に目覚めた。その能力とは、父・良平が死亡し母・加奈子が生存している世界Aと、父・良平が生存し母・加奈子が死亡した世界B、この二つの世界に属するというものだった。
冒頭から少しの間はいつもの小林泰三特有の論理的に厳密すぎて苦笑する会話文で、ギャグ寄りなのかホラー寄りなのか掴みかねていたが、災害の発生によりシリアス展開、という予想外の方向への舵の切り方となる。
以降は会話文の可笑しさはなりを潜め、物語の完遂に務める感じに。話のまとまりは良い感じだが、読後に少しの物足りなさが残る。らしさを欲しがってしまったか。