書は言を尽くさず、

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麻耶雄嵩 『鴉』

1997年の「本格ミステリベスト10」第一位に選ばれた一作。
宗教に似た概念が支配する世界。閉鎖的空間で起こる連続殺人。兄と弟。視点人物を駆り立てる誘因。物語を牽引する謎たちが、後悔に満ちた繊細で陰鬱とした文章で綴られる。前述の要素たちは、銘探偵との交流を経て、衝撃の結末にすべて集約されていく。この小説での「仕掛け」や、含ませたテーマなど、非常に好みである。
再読して気付いたのは小説としてのまとまりの良さであり、同著者の『夏と冬の奏鳴曲』が尖りに尖って主張し続ける様と比較したところでは、どうしても引けを取るというか、優等生じみた感触を覚える。もちろん、こんなにおかしな優等生はなかなかクラスにはいないわけだが。