
地方新聞社から刊行された幻の長編が、書泉・芳林堂書店のバックアップのもと復刊ドットコムより奇跡の復刊。*1
そもそも見つけること自体が困難な書籍だったが、自分は偶然にも20年以上前に読むことができた。
当時在住地の図書館に所蔵があったためであり、借り出しして読了後しばらくして図書館が除籍しリサイクル図書として自由配布されている状態で出くわすという僥倖にも恵まれていた。勿論即回収。
その記憶すら幻なのではと不安になるも、先程今も本棚に所在することを確認し安堵している。今回20年以上ぶりの再読となる。
内容は、現在と過去、作中作と書簡などを行き来する複数階層構造の物語。巻頭カラーとして複数の絵画が挿入され、ストーリーの中で順に触れられてくる。絵画の作者は著者本人(絵画ペンネームは阿部勝則)のものもあれば国吉康雄、村山槐多など実在画家のものもある。
美術論、本格推理論などが展開されていく中に、一部著者の私小説的要素も垣間見える(鮎川哲也賞と思しきパーティの様子など)のが面白い。
現実か作中作か書簡か、嘘か真か、「本格推理の幽霊」とは何か。結末は一筋縄で読み解けるものではなく、初読時はどうしたものかと感じた記憶はあったが、再読後の今も大きく印象は変わらず。
それはすなわち自分が成長していない、とも感じられてしまい、なかなかに悲しい読後感もある。
新装にあたり大幅追記されたのはあとがき。
開催イベント「ミステリ作家トークイベント~変格ミステリって何?~ *2」「ブラッディハロウィン~覆面作家は死を招く~*3」でのエピソードや質問回答内容などを記し、著者の実在性を確保するものという性質に近く感じた。
本編で散々実在と非実在にかかるテーマを扱いつつ、新装版あとがきとして近況を詳らかに記すのは、時を経た後の作品へのアンサーのようにも感じてしまった。
なお、自分は過去、20年以上前に神保町で行われた著者の個展を訪れ、著者と対面で会話する機会があった。個展に訪れておきながら絵も買わず、なおかつ絵画への知識経験興味薄く、といった大変不躾な姿勢を見せてしまった記憶だけは残っているが、無礼な若造を相手に優しく丁重に接していただいた物腰の柔らかさは記憶に残っている。
ミステリシーンに戻ってきた飛鳥部勝則を今後も追い続けていきたい。