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知念実希人 『硝子の塔の殺人』

硝子の塔の殺人
建築基準法を無視したような館、風変わりな館の主、名探偵・刑事・医師・小説家・料理人・霊媒師・編集者・執事・メイドなど記号化された登場人物、外界からの閉鎖状況の発生……古式ゆかしい新本格ミステリのような構成要素に溢れる。
名探偵から特に繰り返し発される様々なミステリ談義にも新本格らしさを感じるが、しつこいほど「空気を読めないヲタクの悪癖」かのように描写し周りから止めさせたり、またミステリ談義自体が比較的入門編のような部分に留めているあたりが、著者の巧妙さというか、ミステリ愛はありながらも極めて客観的な、抑えを利かせて読み物としての面白みのバランスを取る器用な部分が伺える。
プロローグから見せられる倒叙物の様相は、事件がいかに展開されるかという点で興味をそそり物語を牽引する。最終日で発覚する真相とその構造に至るまで、長編小説を飽きさせないための工夫と見られる。ベテランの技だろう。
著者の本職・医師ならではの医療知識を活かしつつも、他のミステリ要素とのバランスも良い。著者の他作品は未読だが、もう少し医療ミステリ的な要素が強いのだろうか。
なお、巻末に寄せた島田荘司のコメントは、やや暴走的で面白い。流石御大。









ネタバレになりかねない感想としては、以下。









こういう二重構造で最初の解決に飛び付かせる作品は、若干性格が悪いところが見えて嫌いじゃない。予防線を張っていてずるいと言われれば、その通りだと認めつつも。