『小説野生時代』連載作品の単行本化。
アニメイベントで発生した大量無差別殺傷事件。銀行に勤める安達はニュースで事件を知るが、その犯人・斎木が小学生時代の同級生であることに気付く。
事件の関係者らによる群像劇、真相に迫るための地道な捜査行動の描写など、貫井徳郎作品ではよく見られる手法。地に足の付いた心理描写で高いリーダビリティ。安定感のある仕上がり。
群像劇の各視点人物ごとのエピソードについては、これで終わり?となってしまう人物もちらほら。インタビュー*1によると、他の著作に比べ「リアリティの度合いが1段階くらい深くなっている」という。言われてみれば頷ける部分があり、何とはなしに印象に残るディテール描写が人物造形に貢献している(娘を殺害された一家の「手洗い、うがい」に関する描写など)。このトーンでもう少し長く読みたいと感じる部分があった。
同じくインタビューによると、先の展開をあまり考えず進めていたようで、視点人物を誰にするかはアドリブ。なんとなく貫井徳郎の手癖的なものは感じるが、アドリブと手癖だけで書けるものではないので、あくまで全体像があった中での話なのだろう。安達を主軸と見た場合は無駄のない構成と言えるが、惜しくも感じる。