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山吹静吽 『迷い家』

迷い家
日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。
第二次世界大戦中、日本本土が空襲を受けることが珍しくなくなってきた頃が舞台。東京から山村に疎開した兄妹が、疎開先に根付く伝承「山のお屋敷」に迷い入り、そこに眠る宝物や妖と対面する。
第一章は描写を重んずる足取りの重い文体。「山のお屋敷」では多数現れる宝物とそれらの解説が執拗なほど綴られながら物語が展開する。バランスを逸しないためか各解説は一品数行適度だが、文語体が分量以上の加重を生む。第二章は会話文も増えスムーズな文体へと多少傾くものの、結局至る所は同様。もう少し読ませる工夫が欲しいとは思いつつも、一方でこの歪な形には熱量と可能性を感じさせる。辛口選評を受けての改稿後でも、この尖った部分は敢えて残し、デビュー作らしさを魅せたのだろう。個人的には、久しぶりに次回作が気になる新人。