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西尾維新 『悲球伝』『悲終伝』

悲球伝 (講談社ノベルス)悲終伝 (講談社ノベルス)
伝説シリーズ第9弾と第10弾。感情のない英雄の地球との戦争もついに完結。
一年に一冊程度の刊行ペースだった当シリーズだが、『球』と『終』は二ヶ月連続刊行でスピード感を維持。
『球』では、前作『衛』のラストシーンの後、行方不明となった空々空らが乗り込む人工衛星『悲衛』の所在を探すための、地球居残り組の杵槻鋼矢、手袋鵬喜、人造人間・悲恋らの活動が描かれる。
『終』では、『衛』から地続きで、空々空と地球の対面と、月に墜落した後の『悲衛』内での船内活動と、最終決戦(?)が描かれる。

上のように一言でまとめてしまうと、こんなものか、と感じてしまう。正直、伝説シリーズはバランスの良い作品ではない。物凄い分量を持つ「巨編」ではあるが、エピソード量が多いわけではなく、脇道に逸れるようなモノローグや、神の視点による補足描写が一挙手一投足に挟まれるため、異様に長くなっている。シリーズ全体の半分を掛けた四国ゲームなどは、最早やり過ぎである。キャラクターの肉付けの目的もあるので、水増しというと言い過ぎかもしれないが。
最終巻の最終局面も唐突であり、尚且つあっさりとしている。そこに至るまでのロジック…というか展開の転がし方・辻褄の合わせ方は、流石西尾維新というところで、風呂敷の畳み方には小慣れているものの、バランスの悪さは否めない。

一つ、この長さによる副産物があるとすれば、それは地濃鑿というキャラクターを生み出した点だろう。ああ言えばこう言う、究極のKYキャラ・地濃。主人公が対話を嫌がる姿についつい読者として感情移入してしまう。感情がないはずの主人公なのに、感情移入するなんて不思議なことだ(地濃のせいでキャラクターがぶれてしまったという面もある)。嫌は嫌だけど、読ませてしまう。一日歩き回った足の臭いをついつい嗅ぐような、妙な好奇心と冒険心も感じさせる。ある意味、伝説シリーズのヒロインとも言える。