SFのようなものもあればホラーのようなものもあり。むしろ現実世界のみを舞台とした作品の方が少ない。異様なまで妄想力と、それを肉付けする文章力は圧巻モノ。
ただ、性・セックスに拘りすぎるきらいがある。きっと、著者の最もプリミティヴな部分、ということなのだろう。阿部和重におけるバイオレンスと同じような位置付け。
しかし、13編のうち大半にそうした要素があるのはいかがか。別に上品な表現に留めているわけでもないので、うんざりするほど見せられるのも困りモノである。
そうした中で明らかに異彩を放つ「二年前のこと」だけが強く印象に残る。発生した事実と、それに対する心理描写が非常につぶさである。果たしてエッセイなのだろうか、小説なのだろうか。
いずれにせよ、ノンフィクションめいた作品にだけ興味を惹かれたという事実は、「この作家の小説、向いてない」と結論付けるのに充分と言えた。