書は言を尽くさず、

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黒井卓司 『さよならが君を二度殺す』

さよならが君を二度殺す (角川ホラー文庫)
第18回日本ホラー小説大賞最終候補作。
冒頭は民俗的なホラーを想像させながら、中盤でSF的設定がぶち込まれ、アクション要素を織り交ぜながらエンターテインメント映画風に完結する、なんとも慌しい作品。
四国の山村、バイクアクションの描写、登場人物の一人であるタクシー運転手などなど、著者の経歴とリンクするような要素が幾つも存在し、それらがある程度の拘りと分量を以って描写されているのを見ると、いかにもデビュー作なので入魂し詰め込みましたという感覚。
しかも、物語の筋に必要なく冗長になるだけのような描写もちらほら……。別に描写過剰は悪いわけではなく、作家性というものを感じ取れる部分のため合う合わないは人それぞれだが、自分の肌には合わなかった。
キャッチーなタイトルの割にそこまで切なさを感じさせなかったのも、この詰め込み感や独特な描写の癖のせいかもしれない。


ただ、相性が良くないと感じさせる割には読ませるという、妙なリーダビリティが本書にはある。
一筋縄ではない人生経験が、文章を達者にさせているのだろうか。


なお、大森望が選評で絶賛された云々と書いているが、それなら選評全文付けてあげてよ編集さん、と思ってしまった。受賞作には必ず付いているのに。