書は言を尽くさず、

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宮ノ川顕 『斬首刀』

斬首刀
日本ホラー小説大賞受賞作家の書き下ろし。
農学校での風景、幕末の物語、戦後の惨劇、淡い恋模様。その全てが中途半端な描かれ方で、視点がばらばらと動く割にキャラクターの個性も薄い。誰にも感情移入できないまま話が進む序盤はただただ退屈。
中盤、ようやく物語が動き始めるが予め想像した範疇であり、終結への期待のみを持って読み進めるが、その結末は何だかすっきりしない。結局のところ感情移入はできないままなので、ラストシーンに盛り上がるはずもない。
これはどうしたことなのか。『化身』で見せた執拗なまでの筆力は何処に行ったのだろうか。時折文章表現に面白い箇所は出てくるが、あまりに密度が薄いように感じる。手法も分量も違いすぎる『化身』と比べるのは酷というものだが……。
こんなに誉めようがなく、また、ネタにしようもない作品も珍しい。ひょっとして自叙伝に近い内容が多かったのだろうか?(特に農学校関連) だとしたら、描写の量・他のエッセンスとの組み合わせ・出版のタイミング等々、色々と失敗していると思う。
謗るような感想しか書けない自分が嫌になるほどの作品。そういった風に読者の心理を惑わすという意味では、「小説」をやっているとも言えるが……。