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貴志祐介 『新世界より』

新世界より(上) (講談社文庫) 新世界より(中) (講談社文庫) 新世界より(下) (講談社文庫)
第29回日本SF大賞受賞作。
現代から1000年後、人間が超能力を有する世界を舞台とする。
まず考え抜かれた世界設定に舌を巻く。固有名詞の頻出とその説明で導入に手こずる部分は若干あるが、読み進めていくうちに読者の知的探究心をくすぐるようになる。
その世界設定を含めた幾つもの謎で物語を牽引し、読者を引き込んでいく巧妙さは、流石はベテラン作家と言ったところ。本当に、巧く焦らす。
ただ終盤、とある場所への「行軍」については少しテンポを欠いていて、冗長さを感じた部分もある。これは好みの問題かもしれない。
登場するキャラクターも個性の強い人物が多いが、特に人間並みの知能を持った生物・バケネズミの指導者格である、スクィーラや奇狼丸たちの印象が強く残る。最後の最後に明かされる真実を踏まえれば、殊更に。
緻密な世界観を、根気と力強さで描き切った傑作。『黒い家』『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』などの歴代著作のエッセンスを含み、現時点での貴志祐介の集大成と言っても過言ではないかもしれない。