阿部ちゃんの小説を読むのは久しぶり。
テーマは偶像とパパラッチ。ボーカロイドやヒューマノイドなど現代的な要素を取り入れたり、お得意のインターネット掲示板や洋楽の歌詞を好んで用いる面は著者ならでは。軽薄だのミーハーだの言われそうだが、これぞ阿部和重。
文章は相も変わらず描写優先。映像と音響をそのままに伝えようとしているような文章で、読むために体力が要る。映画への傾倒による影響か。『シンセミア』ぐらいの分量があるとつらいが、本作なら丁度良い塩梅かもしれない。
中盤より登場する成功哲学の一種「引き寄せの理論」の胡散臭さと、その理論を提唱する人物・ニナイのいかがわしさにより、物語は一気に加速する。結末の場面に漂う雰囲気は無情と無常で、これも阿部和重が好むテーマのように思える。