日本の南北朝時代を舞台とする、所謂「北方太平記」シリーズの第二作にあたる。
本書の主人公は北畠顕家。麒麟児として若年から文武の才覚を発揮し、奥州を僅かな年月で掌握、常識を超える速さで上洛し足利方を圧倒しながら、齢21であたら命を散らす。この苛烈で濃密な人生が、北方節をもって綴られる。
北方謙三の文章の特徴は、必要以上に語らない会話文と、異様な熱を持ちながらどこか静かな地の文。これぞハードボイルドという雰囲気である。ここに顕家をはじめとした魅力的な人物達と、朝廷の浅からぬ腐敗が加わり、滅びに向かう顕家たちを色濃く彩る。
従兄の死にしみじみと泣く楠木正家や、主を守るため特攻した多聞丸ら、漢達の生き様には思わず涙する。
北方南北朝シリーズでは、歴史の転換期の発端となる事件を、作品を変えて立ち位置の異なる主人公の視点で繰り返し描写している模様。悪党の立場からは楠木正成と赤松円心、公家の立場からは北畠顕家、武家の立場からは佐々木導誉といった風に。今のところ本書と『楠木正成』しか読んでいないので、他の作品にも期待して大切に読もうと思う。