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佐藤友哉 『青酸クリームソーダ 入門編』

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)
実に4年ぶりの鏡家サーガ。視点人物は『フリッカー式』の公彦であり、たまらない自意識と根底に流れる無力感が「再現される」というよりもバージョンアップして繰り広げられる。
全編通しての文体から見られる西尾維新への傾倒や、後半急に文学臭のようなものが強まる点は、良し悪しは置いておいたとしても、デビュー作から顕著に変化した点だと思う。このように誰かの影響等を透けて見させることが、狙ったものか天然のものかは解らないが、佐藤友哉らしいB級臭を強化させている。ただ、「痛々しさ」については、デビュー当初よりも作為的な面が目立つようになっている気はする。
水没ピアノ』までの3作で絶望し、『クリスマス・テロル』で自らを淘汰し、流れに流れて「群像」や「新潮」への進出の後に三島賞を受賞。波乱含みながらも結果として順調と云える歩みを経た後、小慣れた素振りを見せつつも、著者の本質は変わりないと思わせた一作であった。