古川日出男の文章は読者の頭の深いところに入り込み、意地悪なほど想像力を掻き立てる。収録の20編はいずれも短く、一瞬で過ぎ去るように読めてしまう。大いなる物語の序章か終章をかいつまんだような書き様で、いずれも充足感とともに惜しさ・勿体なさを覚えさせ、続く物語の展開を想起するよう促す。
本を閉じると想像の世界は霧散するが、その文章を再度目にした時の昇華を忘れられず、ぱらぱらと捲り返す。
文庫版解説を読んだとき、信者の感想は要を得ないと感じたが、自分も何ら変わりはない、批評にはなり得ない感想を書き連ねていることに気付く。それでも構うまいと思わせるほどの文章巧者でもある。