芥川賞受賞後第一作長編。
三年半ぶりの作品でまず目に付くのはその文体。
前二作で頻繁に見られた、一人称での尖った言語感覚は鳴りを潜め、散文的な飾り気のない三人称の文体で物語は描かれる。しかし、その尖った文体は完全に姿を消したわけではなく、要所要所で僅かに配置され、物語の起伏として全体を引き締める形となっている。
また、扱っている題材も、前二作が学生の生活のうちごくごく限られた狭い部分であったのに対し、本作では芸能界という、特殊ではあるが言わば「実社会の一部」を扱っている点も興味深い。
この文章作法やテーマ・設定の変化から、著者が新境地に挑んだ作品だと思う。しかし、個人的にはこれらの変化が著者の個性を悪い形で薄めてしまっているように感じられた。「過去作品のほうがよかった」とだけ単純に言うつもりはないけれど、退屈さは隠し切れない。
この後、次回作をどのように投げてくるかは気になるところ。