「たとえ誰かを差別した所で、それでも作者の信念に於いて書かなければならないのが、小説というものだ。表現者とはそういうものだ。芸術家は神をも超える権利を有している。そうでないと芸術など成り立たない」
安藤シリーズ第3作。
初期浦賀の至宝とも言うべき作品、だと勝手に思っている。
シリーズ主人公である安藤直樹のキャラクタの過剰な掘り下げに、現在の浦賀和宏には見られない「気取り」のようなものが見受けられる。好みが分かれるところであろうが、こういった幼さが自分は割と好き。
そして、「ミステリと純文学のボーダーライン上にある作風でデビューしたが、売り上げが芳しくないため本格ミステリを執筆し、それが認められ知名度上昇」という、まるで著者が今後行き着く姿を予言するような(一部理想像も混じっているだろうが)登場人物が登場し、主人公安藤直樹との会話にて作家論を展開している点も注目。著者がここまで「作家」というものについて作中で真摯に語っているのは本作だけではなかろうか。
今回改めて再読してみると、前述の人物描写や、視点を小刻みに変え心理描写を織り交ぜながら物語を進行させる様は、程度の差はあれどどこか京極夏彦と似ている部分があると感じた。そういえば『記憶の果て』でのデビュー時の推薦文も京極だったな、と思い出しながら。