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浦賀和宏 『デルタの悲劇』

デルタの悲劇 (角川文庫)
文庫書き下ろし。
斎木、丹治、緒川の3人組は悪童としてつるんで暴れ回っていたが、小4の時の同級生の溺死事件をきっかけに疎遠となった。十年後に3人の前に現れた「八木剛」という男は、3人に罪を告白するように迫る。
以上が作中の登場人物「浦賀和宏」による作品作「デルタの悲劇」の筋であり、ペンネームを「浦賀和宏」としている作家「八木剛」の母親が、何者かに対して作中作「デルタの悲劇」を献本とともに宛てた手紙が冒頭となる。

高いリーダビリティと技巧により安定度の高い作品を量産する浦賀和宏。本作もなかなかに凝った仕上がりである。

以下はネタバレ。










作中作であること、また浦賀らしからぬ部分部分での説明不十分さが敢えてフォローされない面などから、何らかの構成上のギミック(叙述トリック)があることは匂わされるものの、時制と性別と人称のトリックの組み合わせとは予想が付かなかった。複雑な構成でかなり気を遣わないと書けないものではあるが、結果として文章に不自然さを残し、いつもは浦賀作品にあるはずのリーダビリティに影響しているのが勿体無いところ。
「桑原銀次郎」を引っ張り出してトリックを解説させる部分は、自分の工夫を滔々と語るようなくどさを感じるが、最後のどんでん返しを用意することで言い訳がつく格好。
「桑原銀次郎」、「八木剛」、「浦賀和宏」と、再登場と再利用を駆使するのも浦賀らしい。銀次郎は、最早ノンシリーズの殆どに顔を出す代表的なキャラクターになったようだ。しかし、今回はあまり不幸そうではなかったのは残念である。