書は言を尽くさず、

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森博嗣 『サイタ×サイタ』

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

「何階なんですか?」三階の手前で、小川が尋ねた。
「六階」と鷹知は答える。そして、さらに速度を上げて、上へ行ってしまった。
目的地がわかったので、小川は多少速度を緩めた。三階には、明るいナースステーションがあった。それを見て、彼女は深呼吸をした。後ろから来た真鍋が、小川にぶつかりそうになる。
「どうしたんですか?」真鍋がきいた。
「なんでもない。まだ半分」
「違いますよ、五分の二です。四十パーセント」

Xシリーズ第5作。
とある男性の行動を見張って欲しい。姿を見せない依頼人からの仕事を受けた小川は、真鍋・永田・鷹知らと調査を開始する。
Xシリーズは著者曰く「オーソドックス」「普通」がテーマらしい*1。確かに、素行調査・聞き込みのシーンが中心となっており「普通」の小説だが、森博嗣の中では「異常」な部類と言え、かえって新鮮味がある。また、「普通」の人間代表である小川が主な視点人物となることで、読者を感情移入しやすくしているように思う。とはいえ、次に視点人物になることが多い真鍋の思考はやや変わっていて、犀川や海月などと若干似たような、いかにもな森博嗣キャラのパーソナリティ。バランスが良い。
時折混ぜる引用部分のようなセンスは流石。森博嗣節。