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小林泰三 『失われた過去と未来の犯罪』

失われた過去と未来の犯罪
小林泰三お得意の記憶を題材として扱う作品。
長期記憶の保持が不可能となった未来を舞台としたSF作品であり、第1章では記憶保持困難となった事態の発生直後を独特の理屈っぽさで描くことで世界設定の説明を丹念に行い、第2章ではこの設定下でのオリジナリティ溢れる物語を短編集に近い形式で複数綴る。
SFは想像力が問われるジャンルで、小林泰三の理詰めなスタイルが充分に活かされる。各編に加えられたミステリ要素の味付けも程よく、興を削がないレベル。文明論も入り込み過ぎない、読み易さ重視。まとまりの良い作品と言える。