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貫井徳郎 『後悔と真実の色』

後悔と真実の色 (幻冬舎文庫)
第23回山本周五郎賞受賞作。
連続殺人事件を追う警察小説。かつ群像劇であり、警視庁捜査一課の刑事の視点を中心に物語は展開する。
泥臭い捜査過程、警察内の人間関係・組織間の対立、刑事と家庭の姿、マスコミや政治家の関係・影響など、様々な場面を通して登場人物の実像を映し出す。古式ゆかしい警察小説の雰囲気を漂わせながらも、人物描写こそ本来の目的と思わせるような執心ぶりである。
しかし、「犯人当て」という面でのミステリー要素も、物語序盤から物語を牽引し続ける。特に主人公・西條に転機が訪れた後の終盤は、探偵ばりの名推理やどんでん返しなどのミステリー要素がかなり高まる。反面、そこまで物語が帯びていた、苦く饐えるような現実味もやや薄れる。
文庫版の西上心太の解説に、著者の山本周五郎賞の受賞のことばが引用されている。そこでの言から、著者が自身の著作の傾向の変化(トリック/プロットに凝ったミステリーから、人間ドラマ/テーマの深化へ)を意識しながら、原点と現時点を擦り合わせて完成させた力作であることがわかり、なるほどの一言。