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書は言を尽くさず、

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西尾維新 『悲鳴伝』

book

悲鳴伝 (講談社ノベルス)
西尾維新の新たなシリーズもの。
主人公は十三歳の少年。しかしある日突然、一般人には伏せられた防衛組織にスカウトされる。特殊な能力を持っていることを知らされた少年は、人類を救うため戦い始めることとなる……。


といった風に、粗筋だけをなぞるとありきたりなヒーローもののように思えるが、実際に読んでみると少なくとも真っ当なその種のものとは異なる印象が残る。
その理由は、主人公が組織に入る経緯や、超能力や人外の存在を認めつつも妙な部分で現実的な点など、複数あると思われるが、その最たるものは主人公の性格であろう。おそらく途中まででもこの物語を読み進めていれば、この点に異論を挙げる人は少ないと思われる。
というのもこの主人公、ヒーローらしい情緒が皆無である。喜びのあまり拳を天に掲げることも、怒りに激しく心震わせることも、哀しみに包まれ涙することも、楽しく仲間と笑い合うことも、一切ない。その感情の欠如を前面に出しながら、517頁の物語は展開し、結ぶべきところで結ばれる。


西尾維新作品の視点人物(およびめだかボックス球磨川禊)は、大抵は一風変わった性格をしている。正統派の主人公らしいキャラクターは滅多にいない、というか記憶にない。
その中でも、本書の主人公はずば抜けている。そうすんなり感情は移入させない。だけど物語には没入させてやる。半ば感情移入を諦めさせるような人物造形から、著者の気概を感じるのは自分だけだろうか。