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書は言を尽くさず、

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北方謙三 『楠木正成』

楠木正成〈上〉 (中公文庫) 楠木正成〈下〉 (中公文庫)
北方謙三の鎌倉末期〜南北朝時代を舞台とした歴史小説シリーズの一作。
天皇が二人いた時代。タブーの一種とされる歴史。本作はそこに至る前の、鎌倉末期から建武の親政あたりが主な舞台。
かの楠木正成を主人公として、皇室でも武士でも公家でもない「中世の悪党」の視点から、鎌倉幕府の滅亡と続く親政の混迷を描く。
武士によらない新たな国を志す想いは、いずれ無常観と諦念に変わっていく。戦い抜いた末の喪失感に打ちひしがれる漢たちの姿は、強く哀しく胸を打つ。
楠木正成以外に、護良親王、赤松円心、北畠顕家足利尊氏ら英傑たちの人物像にも深みがあり、惹き付けられるものがある。
そして北方三国志にも登場した、猪の中に野菜と米を入れて丸焼きにする野戦料理。小説の描写でここまで食欲をそそられることは本当に珍しい。
歴史小説ということで人を選んでしまうかもしれないが、ハードボイルド風の熱さを大いに伴った娯楽小説である。