書は言を尽くさず、

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中井拓志 『レフトハンド』

第4回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
埼玉の奥地にある研究所を舞台とする、新種ウイルスの恐怖を題材とするホラー小説。
レフトハンドウイルスに感染した者は左手が捥げてひとりでに動き出し、人肉を餌として人間に危害を加える、というバイオホラー的な設定。
通常、こういった設定下での展開といえば、その左手たちとの闘いを描くアクション要素を中心に据えたものだと想像してしまうだろうが、本書はそうではない。
本書にて重きが置かれるのは、レフトハンドウイルスに関連する人々の、心理面の描写である。人々のウイルスに対するスタンスを、狂気や異常も含めて丁寧に描いている。一方で、退屈になり過ぎぬような展開の工夫も見られる。
カタルシスのみを求める人にはお薦めできないかもしれない。しかし、この描写力・展開力は角川ホラー作家のみならず日本のホラー作家内でも稀有な存在であると言える。