書は言を尽くさず、

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舞城王太郎 『スクールアタック・シンドローム』

そしてそれを長い間続けて、ようやく諦めたふりをして、長い間に培ってきた大きな「ふり」の舞台からすっと降りて、その舞台だけが手を離れた紙飛行機のように軌道をまっすぐに飛びつづけていくのを見送りもせず、目をそらし、そんな舞台なんてなかったことにすること、そこで延々踊っていた二人の時間もなかったことにすること、忘れたふりをすること、こういうことをゆっくりと演ずる長丁場の二人芝居が、たぶんりえには必要だったんだろうと思う。余計な苦しみや悲しみを人生から排除しようとするならば、これはでもなかなか有効な手段だ。

単行本『みんな元気。』より2編を収録し、書き下ろし1編を加えた短編集。
『みんな元気。』から抜粋された2編と書き下ろしの1編、いずれにも共通する特徴としては、狂気や異常が周囲を取り巻く中で、視点人物の語りは実に冷静で、道徳や倫理や生理的嫌悪感とかによって書きやすかったり書きづらかったりすることを、相変わらずの舞城流自己完結癖による執拗な文章密度で、淡々とペースを崩すことなく描いている。その牽引力は並みのものではない。