書は言を尽くさず、

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吉田修一 『春、バーニーズで』

「こいつには、俺の息子のこいつにはさ、今のうちから、いろんなこと、混乱させといてやりたいんだ」

デビュー作「最後の息子」の続編。
前作では無軌道な若者だった主人公が、本作では一家の主人となっており、状況の変化による考え方の変貌と、過去の記憶を懐かしみ、時に積み残した思い出に歯噛む様などが描かれる。
上記に挙げたような複雑な心理描写が秀逸で、地に足をつけて生きなければいけなくなっている男を充分に描写している。

文庫版だけの特徴か、単行本も同じような仕様であったかは不明だが、小説の合間に時折写真が挿し込まれ、ファッショナブルな方面に味付けがされている。その写真の画質を保つためか、紙の質感も上々で、装丁面でもかなり良いつくりである。