書は言を尽くさず、

本読んだりしています

宮部みゆき 『模倣犯』

同著者の先行作『火車』『理由』と並べて称される「現代ミステリ」三部作の最高峰。
主軸となる連続殺人事件に関連して、幾人もの登場人物とその家族が描かれる。端役であろうと筆致を尽くし、小説の構成物として丁寧に仕上げて行く様はまさに職人芸。
群像劇というよりは、現代の家族の在り様と、家族を構成する人々の生き様を、連続殺人事件をテーマに、非常に高いリーダビリティのもとに描き切った作品である。






(以下ネタバレ・スジバレ注意)





事件の被害者側・マスコミ側・警察の捜査班側の視点から語られる第一部の終焉とともに一旦容疑者は判明し、第二部では容疑者側の視点で第一部の時系列をなぞる構造となる。第三部では、第一部での主体に加え、真犯人Xからの視点も合わさり、事件の解決に向けての展開が描かれる。
このくどいまでの事件描写は、登場人物の行動原理を明確にするために必要な掘り下げではあるが、一部おさらいのような繰り返しの内容の部分も見られ、物語のスムーズな展開・リズム感を疎外している面があるように思う。登場人物の多さや、もとは雑誌連載作品であることから致し方ないようにも思うが。
第三部の終盤、真犯人Xのボロが出ていく場面については盛り上がりに欠け、あっけない感覚が残る。真犯人Xの人物描写との齟齬はなく、むしろ妥当といえる展開ではあるが、大長編が素直に沈静していくようであり、やや寂しい・惜しいと思わずにいられない。

上記のような、小説としての偏りはあるものの、物語への牽引力は抜群であり、ミステリ史上に残る傑作といっても過言ではない。