書は言を尽くさず、

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佐藤友哉 「1000の小説とバックベアード」(『新潮2006年12月号』掲載)

新潮 2006年 12月号 [雑誌]

「今の私に小説なんて書けるかしら」
「書けるに決まってますよ。だって、小説を書くような心で書いたら、それはもう、小説なんですから」
「美しい言葉ね。誰の言葉?」
「僕の言葉です。僕が思い、僕が考え、僕が信じる言葉です。」

これは「小説についての小説」。主人公が小説家としての「方向性を定める」までを、架空のファンタジー的な設定のもとに描いた壮大な小説。
真摯だがあまりに不器用に過ぎる、著者の小説に対する取り組みが窺い知れる一作であり、非常に好印象を抱いているが、反面がっかりしたことも否めない。それは、本作はあくまで「方向性を定めた」だけで、「歩み出した」一歩を詳述していないためである。『クリスマス・テロル』での暴発以後、著者はずっと同じような方向性の模索を続けているように思えるのだ。
350枚という久しぶりの長編クラスの分量なのだから、「小説についての小説」といったひねくれ方を見せず、真っ向から「歩み出した」その一歩を見てみたかった。……これは気が急きすぎなのかな?


佐藤友哉の第2ステップはまだ始まったばかりのようだ。今後も見守り続けたい。