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飛鳥部勝則 『誰のための綾織』

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)
あー久しぶりに凄く気に入った。
この作品の秀逸さは全てタイトルに集約される。新潟大地震を描きながらも、その扱いは刺身のつまのようであり、著者の主眼はあくまで本格推理小説とその読者に向けられている。誰のために小説を紡ぎ綾を織るのか。その対象は新潟大地震に興味を示す一般読者層ではなく、ごく一部の本格推理小説ファン(もっと言えば自分自身)という極めて狭いものであることを、著者は自覚し居直りながらも心のどこかで後ろめたさを持っている。そのような気がしてならない。
そうした葛藤がこの作品にはぶつけられていて、結果凝りに凝った飛鳥部勝則ならではの一作に仕上がっている。自作の油絵、あとがき、女子高生、偏屈な画家などの飛鳥部的な要素も復活し、不思議な懐かしさを感じる。中盤はやや中だるみするが、結末はあっと驚く閉じ方。巧い。